掛軸の作り方 (裏打ち編 Part2)

昨日は本紙(ほんし)(きれ)の「肌裏打(はだうらうち)」まで進んだので、今日は「増裏(ましうら)」を打ちます。
増裏には、本紙と裂の厚さを調整する目的と、巻き癖が付くのを押さえる目的があります。増裏に使う紙は美栖(みす)*1です。土粉が入った紙ですから破れ易く、薄口、極薄は扱いが難しいんです。出来れば中肉以上の厚みがある紙を使いたいので、昨日の肌裏(はだうら)で薄口や極薄の美濃紙(みのがみ)を使ったんです。(これが理由でした。(笑) )

増裏の紙取り

まずは肌裏を打った裂と本紙を、箆挿し(へらさし)*2から(へら)を挿し込んで、仮張(かりばり)*3から剥がします。
剥がしたら、増裏の紙取です。紙の方向は横です。こうする事で肌裏と繊維の方向が交差しますから巻き癖が付き難くなるんです。裂と本紙の厚さを見ると、ほぼ良い感じだったので、思惑通り全て中肉で打つことにしました。
台紙と柱は1枚の紙から取る事が出来なかったので、途中で継がなければならないのですが、継ぎ方は肌裏とは違い喰裂(くいさき)*4にします*5

糊の用意(増裏用)

紙取りが終わったら(のり)を作ります。紙と紙を貼り合せるので、糊の濃さは本紙の肌裏打と同じくらいです。昨日の糊が残っていたので、濃さを調節して使いました。

増裏打

裏打の要領は本紙や台紙の裏打とだいたい同じです。1枚で打てる分は送り打ち、継ぐ分は投げ打ちです。
作業台を丁寧に拭いて、肌裏を打った本紙(又は裂)を裏向きに置きます。この時に迎え水(むかえみず)*6を与える事もありますが、今回は乾打(からうち)*7にしました。
裏打紙(美栖)を上に重ねて端を決めたら、作業台に糊をつけて裏打紙を固定します。固定した所から折り返して、裏打紙に糊をつけます。この時、かすれや糊溜まりが出来ないように気をつけるのですが、美栖は刷毛(はけ)で何度も擦るとももけてくる*8ので注意が必要です。糊付けが終わったら、取棒(とりぼう)で持ち上げます。
少し湿らせた棕櫚刷毛(しゅろばけ)*9で撫ぜながら、裏打紙を本紙(又は裂)の上におろして行き固定します。
2枚以上の裏打紙を継ぐ時は、別の場所*10で糊付けをし、取棒で持ち上げて持って来ます。重ねる部分は喰裂(くいさき)のけばだったところだけです。重なりが少なすぎると口が開いてしまいますし、大きすぎると継いだ部分に段差が出来てしまいます。だから、ここは集中力が必要なんです*11
しっかり撫ぜ込んで固定したら、表に向けて、張り手に少し濃い目の糊をつけて、箆挿し(へらさし)の紙をつけ、仮張に張込みます。作業台を拭いたら、次の裏打にかかります。
これで増裏が打ち終わりました。(乾くまで次の作業には進めません)

筋の裂取りと裏打

午前中に打ち終わりましたから、午後は(すじ)*12を何にするか考えました。
最初は斜子織(ななこおり)*13のテープ(筋斜子)を使おうと思ったのですが、ちょっと面白味にかけるので、いろいろ探してみる事に。そこで見つけたのが襖紙の表面に縦横1本の絓絹(しけぎぬ)*14の平織りを貼ったものでした。
濡らしてやると剥がれる事がわかったので、必要な大きさに切り、水に浸けた後、裏向きに板に貼り付け、襖紙を剥がしました。板に貼り付けたままで、少し乾かし、肌裏用の美濃紙を置いて上から糊*15を塗って固定します。糊を塗ったら、そのまま増裏用の美栖を重ね、棕櫚刷毛でしっかりと撫ぜて押さえます。その状態で四方に糊をつけ、箆挿しをつけたら板から外し、仮張に表向きに貼り付けました。(この手法を地獄打(じごくうち)と呼びます)

これで裏打の工程が終わりました。今日の作業はおしまいです。一晩乾かして、明日はいよいよ組立てにかかりますよ。

*1:奈良県吉野の土粉を入れて漉いた和紙

*2:仮張に張込む時に剥がし易いように浮かしておく為の小さな紙

*3:裏打した物を張込んで乾かすところ

*4:和紙の切り口の繊維を毛羽立たせた状態

*5:方法はまたの機会に解説しますね

*6:増裏を打つ前に与える軽い湿り気

*7:水分を与えずに裏打をする方法

*8:紙の繊維が捲れてもろもろになる

*9:棕櫚の毛で作った撫で刷毛

*10:と言っても、すぐ横ですが……

*11:慣れたらそんな事無いですが。

*12:紙や裂の継目に細長く貼って見せる別の紙や裂

*13:縦横7本の糸で平織りにした絹

*14:繭の外側から採った粗い絹糸

*15:裂と紙の接着ですから、少し濃い目の糊ですが、紙を浸透させて裏面で接着させる為、肌裏用の糊よりは薄くしています